毎日当たり前のように利用している道路や下水道が、ある日突然あなたの安全を脅かす存在になるとしたら──。
2025年1月28日、埼玉県八潮市で発生した大規模道路陥没事故では、走行中のトラックが崩落し、尊い命が失われました。 この事故は、インフラ崩壊が「いつか起きる未来」ではなく、すでに現実の脅威であることを示しました。
事故後、国土交通省は第一次提言(2025年3月)を公表し、全国特別重点調査の実施を決定。 続いて第二次提言(2025年5月)では、安全確保を最優先とする下水道管路マネジメントの方向性が示されました。
そして同年12月、これらの議論を踏まえて第三次提言が公表され、 限られた予算と人材の中で国民の安全を守るために、 従来の延長ではなく下水道管理の考え方を大きく転換する必要性が示されました。
本記事では、この第三次提言の中でも、特に私たちの未来に大きく関わる5つの重要なポイントを、専門家視点でわかりやすく解説します。
管 とおる
下水道インフラの未来に関わる、とても重要な報告書が出たんだよ。
諏訪 美管
とおるさんがそう言うなら…なんだかドキドキしてきました!
管 とおる
これから下水道行政が大きく変わるポイントがたくさんあるんだ。
みかんちゃんにも、ぜひ知ってほしくてね。
諏訪 美管
とおるさん、今日も分かりやすく教えてくださいね!
第一次・第二次提言ではなぜ足りなかったのか──第三次提言が求められた本当の理由
諏訪 美管
第一次提言、第二次提言って次々に対策が出たのに、
どうして“第三次提言”まで必要になったんでしょう…?
管 とおる
第一次と第二次は、事故を踏まえた緊急的・優先的に必要な対策をまず示したものなんだ。
点検の強化や調査の重点化など、すぐ着手すべきことが中心だったんだよ。
諏訪 美管
じゃあ、第一次・第二次だけでは、下水道全体の課題にはまだ十分じゃなかったんですね?
管 とおる
事故への対応だけでなく、全国的な老朽化・人材不足・財政の厳しさといった、もっと大きな構造的課題がある。
そこで第三次提言では、単なる点検強化だけじゃなくて、
これからの下水道をどう管理していくべきかという“全体の方向性”が示されたんだ。
「メリハリ管理」や「見える化」「統合マネジメント」など、長期的に必要な考え方が整理されているよ。
第一次・第二次提言は“緊急対策”。しかし課題はもっと深かった
2025年1月に八潮市で起きた大規模道路陥没事故は、下水道管路の老朽化が すでに全国的なリスクとして迫っていることを鮮明に示しました。 この事故を受けて国土交通省は、
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第一次提言(2025年3月)
──全国特別重点調査を実施。事故につながる“危険個所の洗い出し”が目的。 -
第二次提言(2025年5月)
──安全確保を最優先とする管路マネジメント方針を提示。緊急度判定などの制度整備が中心。
しかし、これだけでは解決できない構造的な問題が残されていました。 それが──
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■ 限られた予算・人員の中で効率化が必要予算・人員の減少で、老朽化スピードに対応できていない。
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■ 技術職員の不足で高度な判断が不可能な自治体が多い市町村の約半数が技術職員5人以下という現実。
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■ 下水道の維持管理を設計段階から見直す必要がある「作る」ことが中心の発想から転換できていない。
そこで登場したのが「第三次提言」──下水道マネジメントの考え方を大きく転換する
第三次提言は、これまでのやり方だけでは対応しきれない状況を受けて、
下水道マネジメントの考え方を大きく見直すことを目的としてまとめられました。
これまでの“その場しのぎ”ではなく、長く安心して使い続けるための取り組みへ。
そのために示されたのが、
- ● メリハリ管理(全てを守れない現実への対応)
- ● 人の群マネ(人材危機への構造的対処)
- ● 現場の可視化(匠の安全と尊厳の確保)
- ● 統合マネジメント(作る×維持するを一体化)
第三次提言が示した「優先順位をつけて守る」新しい下水道戦略
諏訪 美管
でも、第三次提言では“優先順位が必要”って書かれているんですよね?
管 とおる
実は日本の下水道は“全部を同じ水準で維持する”というやり方がもう成り立たなくなってきているんだ。
諏訪 美管
どこを優先するかを決めなきゃいけないってことなんですね?
管 とおる
だから第三次提言は“メリハリをつけた管理”の必要性を強く示したんだ。
「すべてを同じ頻度・同じ方法で維持するのは現実的ではない」ってね。
全国で同じ維持管理を続けるのではなく、リスクに応じた重点化が必要
第三次提言は、社会的影響が高い、リスクが高い箇所は重点的・高頻度で調査する一方、
リスクが低い箇所ではスクリーニング調査や時間計画保全、事後保全も検討すべきと示しています。
「損傷リスクや社会的影響が小さい箇所では、スクリーニング調査・時間計画保全・事後保全等の適用を検討し、点検・調査のメリハリを図るべきである。」
つまり第三次提言が求めるのは、
“全国一律”から“リスクに応じた最適な管理手法の使い分け”への転換です。
限られた資源で最大の安全を確保するための、不可欠な考え方となっています。
① 社会的影響が大きい場所は“重点的に守る”
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● 幹線道路下の管路大規模陥没を防ぐため、重点的に点検・診断を実施。
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● 病院・消防・避難所など重要拠点周辺災害対応の中核となるため、リスク管理を最優先。
② リスクが低い場所は、あえて“別の管理手法”を選ぶという新発想
管 とおる
下水道の維持管理といえば“予防保全が基本”って思うよね? でもね、第三次提言では場所によっては別の保全手法も選択肢に入れるべきだと言っているんだ。
諏訪 美管
管 とおる
すべての場所を同じレベルで予防保全するのは、予算や人員の現状を考えると難しい。
だから第三次提言は、「リスクが低い場所なら、更新周期を決める時間計画保全や、状況によっては事後保全も選択肢になり得る」という考え方を示したんだ。
もちろん、“安全を損なわない範囲で”という前提つきだけどね。
下水道維持管理といえば、これまでは「予防型」がメインでした。
しかし第三次提言では、あえて予防保全以外の手法も使い分けるという、
これまでにない考え方が示されています。
具体的には次のような手法です。
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● スクリーニング調査広範囲を低コストで早期把握し、重点箇所を見極める。
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● 時間計画保全細かい劣化診断が不要な場合は、一定年数で計画的に更新。
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● 事後保全万一の影響が小さい場所なら、異常が出たときに対応しても安全を確保できる。
諏訪 美管
スクリーニングについて知りたい方は次へ:
下水道点検と調査の基礎知識:効果的な機器の選択と使用方法 (第8話)
管の内部状況に応じて、ズーム式・押込み式・洗浄一体型・自走式など異なる点検カメラを使い分ける重要性を、やさしく解説した記事です。
諏訪 美管
スクリーニングのオンラインセミナーは:
録画セミナー:第3回「下水道維持管理のスクリーニング点検の実務: 現場作業から報告書作成までの全工程を解説」
公共下水道の維持管理における「スクリーニング点検」を、現場作業から報告書の作成まで一連の実務流れを解説したオンラインセミナーの紹介記事です。
これらは決して“手抜き”ではなく、限られた資源を最も効果的に使うための科学的判断です。 むしろ、全てを同じように扱う方がリスクを見誤る恐れがあります。
諏訪 美管
管 とおる
下水道の危機を「自分ごと化」させる──第三次提言が求める“見える化”の新戦略
諏訪 美管
でも、こういう課題って…やっぱり“市民のみんな”にも関係あるんですか?
管 とおる
むしろ第三次提言では、「市民の理解が必要」と言っているんだ。
諏訪 美管
でも下水道の話って、どうしても難しく聞こえちゃう気がします…。
管 とおる
だから第三次提言では、専門家だけが分かっていれば良い時代は終わった、ってはっきり示している。
下水道の状態や必要な費用を、市民にもわかる形で「見える化」して共有していくことが重要だと強調しているんだ。
第三次提言が示した“見える化”の方向性
第三次提言では、老朽化が進む下水道を「自分ごと化」してもらうために、 市民に対する徹底した『見える化』が必要だと明確に示されています。
とくに次の3つのポイントが重視されています。
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① 点検・調査結果の公表枠組みを明確にすること点検・調査・診断の結果を、市民にも分かる形で公表することが求められています。
あわせて、その公表方法や項目について、国が一定の枠組みを示すべきだとされています。 -
② 下水道管路の現状を正確に伝え、「自分ごと化」を促すこと老朽化の状況やリスクを正確に示し、下水道の維持管理が自分たちの生活に直結していることを、
市民に理解してもらうことが重要だとされています。これにより、費用負担や優先順位付けへの理解を得ることが狙いです。 -
③ 自治体の取組状況を可視化し、比較可能な形で発信すること各自治体の取組状況を可視化し、他地域との比較もできるように情報発信することで、
自治体自身の改善意欲と、市民の関心・理解を高めていく必要があるとされています。
このように第三次提言が求める「見える化」とは、 老朽化した下水道の現状を隠さず共有し、市民とともに優先順位や負担の在り方を考えるための情報基盤を整えることだと言えます。
“自分ごと化”が進むと何が変わるのか
見える化が進むと、市民の理解が深まり、 次のような変化が期待されます。
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● 料金改定への納得感が高まる
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● メリハリ管理の必要性を理解できる
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● 災害時にインフラを守る意識が高まる
諏訪 美管
市民みんなで未来を選ぶために必要なんですね!
管 とおる
▶ 国土交通省:第三次提言・報告書ダウンロードページ
諏訪 美管
一言でまとめると…どんな方向に変わっていくってことなんでしょう?
管 とおる
「メリハリ管理」だよ。
これまでは“全部同じように”点検・補修してきたけど、
老朽化のスピードも、人もお金もそのやり方に合わなくなった。
だからこそ、リスクに応じて管理手法を使い分ける、
そんな考え方に転換する必要があるんだ。
諏訪 美管
管 とおる
下水道の状態や必要な費用、優先順位──
こういう情報を市民とも共有して、
“みんなで下水道を守る”仕組みに変えていくという話なんだ。
専門家だけで抱える時代は終わった、という強いメッセージでもあるよ。
諏訪 美管
メリハリ管理と見える化、どっちも欠かせないんだってよく分かりました!
管 とおる
第三次提言は、これからの下水道行政の“根本治療”に向けた第一歩なんだ。
これからも、一緒に学んでいこうね。





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