下水道維持管理:リスク評価と優先度とは?(第40話)

2024年3月14日木曜日

下水道維持管理の検討

管 とおる

みかんちゃん、前回は下水道業界の計画的維持管理の重要性
→基本から学ぶ下水道業界の計画的維持管理の重要性(39話) ←
について説明したね。

諏訪 美管

はい、なぜ下水道の計画的維持管理が必要なのか
計画的維持管理の主な目的について理解しました。

それじゃあ維持管理の目的が分かったところで、今日はどうやって点検調査する場所を決めているか説明するね。

よろしくお願いします。

今回も、
公益社団法人 日本下水道管路管理業協会から出版されている[下水道管路管理マニュアル-2023-]をもとに解説していくよ。

下水道管路管理マニュアル-2023-





下水道維持管理における優先度の検討方法



みかんちゃん、突然だけどクイズだよ。
KANMAGAでも今まで何度か聞いてるけど、日本の下水道の総延長は?

はいっ!日本の下水道の総延長は約48万km!
ちなみに地球から月までの距離は約38万kmなので、地球から月までの距離より日本の下水道の総延長の方が長いんですよね~!

その通り!
では、48万kmの下水道のうち点検が必要な管はどれくらいあるか分かるかな?

下水管の平均寿命は約50年ですよね?
う~ん、既に50歳を超えた管はたくさんありそうだけど、どれくらいあるんですか??

2023年現在では耐用年数50年を越えた管は約1.3万kmもあるんだ!
これは例えば東京からだとイタリアのシチリア島とか、ジャマイカや南アフリカの方まで行けちゃうくらい長いんだ!

えええぇ~!?そんな遠くまで行けちゃうんですか~!?
とおるさん、寿命を過ぎた管がそんなにたくさんあって、一体どこからどうやって調査や補修していけばいいんですか!?

そこは、リスク評価を念頭にいれて優先度を決めるんだ。

リスク評価?




リスク評価による優先度の検討方法


リスク評価による優先度の検討

管路施設で想定されるリスク評価は、点検・調査・修繕・改築の優先順位を検討するために実施します。
リスク評価は、リスクが発生した場合の「被害規模」と被害の「発生確率」を分析してリスクの大きさを評価します。

簡単に言うと、被害の発生確率と影響度のリスクを掛け合わせて、数値が高いところを優先的に点検・調査・修繕・改築しようということなんだ。

発生確立と危害規模を掛け合わせたリスク表
引用:ストックマネジメント手法を踏まえた 下水道長寿命化計画策定に関する手引き

なるほどー!わたし、今すぐ現場に行って片っ端から下水道たちを助けなきゃ!と思ったけど、そんなやみくもなやり方じゃなくて、まずはリスクのある下水道を机上で抽出するんですね!

みかんちゃんの下水道を守ろうとする使命感は素晴らしいけど、最初にリスク評価することで、より効率的に維持管理することができるんだ!

ところでリスクって具体的にはどんなものがあるんですか?


下水道の異状を放置するリスクについて

陥没している映像
下水道のリスクは、道路陥没漏水などさまざまな事故が挙げられるよ。これは下水道の異状を放置してしまうことで起きてしまうんだ。

とおるさん、どうして下水道の異状で道路が陥没してしまうんですか?

管が老朽化して隙間や穴が開いたりすることで、管の周りの土砂が浸入水と一緒に管内に吸い込まれ、その結果として管の周囲に空洞ができてしまう。 そして、空洞が大きくなると地盤が支えられなくなり、地上で陥没が起こるんだ。

そういうメカニズムなのですね~!大きな事故を起こさないためにもまずは管内の小さな変化を見つけることが超重要ですね!

そうだね!下水道の異状は主に次のようなものがあるよ!

うわぁ~下水道の異状っていろいろあるんですね~

このほかにもパッキンはずれとか、管内ではさまざまなトラブルが起きていることがあるんだ。
以前KANMAGAでも管の異状について書いたからよかったら復習してね。

下水道の異状発見: 緊急度判定のための専門家ガイド (第7話)




これらの異状を放置すると、次のような影響が発生してしまうんだ。


異状とリスクの関連
異状 リスク
破損・クラック ・道路陥没による人身事故・交通障害
・下水道利用者への使用制限や中止
浸入水 ・空洞化誘発による陥没
・処理水量増による処理費の増大
たるみ ・臭気発生・腐食を誘発
油脂・モルタル・木根 ・管路の閉塞
・下水道利用者への使用制限や中止
マンホール蓋の劣化 ・がたつきよる騒音
・スリップによる交通事故
有毒ガス発生 ・悪臭の発散
有毒ガスの噴出
漏水 ・地下水土壌汚染による環境汚染
異状内容によって、その後に発生するリスクがこんなにあるなんて、知りませんでした。

これらのリスク発生確率を、管の経過年数や損傷具合によって想定するんだ。
それから、次のような場所で事故が発生してしまったら、その対応が難しかったり事故の影響が大きいってことを覚えておいてね。



リスクと対応場所の関連
評価の視点 内容
機能上重要な施設 幹線管路
下水処理場に直結した管路
処理場と重要な防災地点を繋ぐ管渠
社会的な影響が大きい施設 日常・緊急時に交通機能確保を図るうえで重要管渠
事故時に対応が難しい施設 伏越し
事故時に切り回しが難しい管渠
埋設深が深い管渠
交通量が多く迂回が難しい道路下
確かに交通量が多い道路の下にある管なんかは事故が発生した場合、社会的に影響が大きそうですね!

そう、だから仮にリスクが発生したら社会にどんな影響が出るかを想定するんだ。この影響度と、さっきの管の異状から起こるリスクの発生確率。 この2つを掛け合わせて優先度を決めるんだ。
ではもう一度この表を見てみよう(^^)

発生確立と危害規模を掛け合わせたリスク表
引用:ストックマネジメント手法を踏まえた 下水道長寿命化計画策定に関する手引き


つまりリスク評価っていうのは、事故が起こりうる管の異状と、影響力が大きい場所を考慮して調査や補修を行う優先順位をつけていくってことなんですね!

その通り!さらに維持管理の方法もさまざまなんだ。
次は、下水道の保守管理について簡単に説明するね。



下水道の保守管理の方法とは?

下水道の維持管理の方法は、大きく分けて[予防保全]と[事後保全]があるんだ。[予防保全]を細分化すると[時間計画保全]と[状態監視保全]に分かれるよ。

予防保全

予防保全は、故障が発生する前に定期的に保守作業を行うことで、設備の故障リスクを最小限に抑える保全手法です。
予防保全には、時間計画保全と状態監視保全があります。

時間計画保全

時間計画保全は、施設の特性に合わせた時間や運用サイクルに基づいて保守作業を行う手法です。
使用時間や稼働時間に応じて、点検や調査を計画的に実行します。

状態監視保全

状態監視保全は、設備の実際の運用状態を監視し、そのデータを基に保守作業の必要性を判断する手法です。
設備の状態をリアルタイムで把握し、問題を早期に発見します。

事後保全

事後保全は、施設の異状や劣化、機能障害が発生した後に、対策を行う管理方法です。


下水道って外からは見えなくて、でも内部で起こった異状を放置しておくと大きな事故が起こるってほんとに人間の身体みたい。そう考えると異状の対策を行う事後保全も大事だけど計画的に点検を行う予防保全も健康診断みたいでどちらも重要な気がしますね。

そう、なんといっても耐用年数50年を越えた、点検しないといけない管は約1.3万kmもあるからね~!リスク評価で優先順位をつけて、事後保全・予防保全をしていくことが重要だよ。
下水道の維持管理はとっても奥深く難しいんだ。 次回は、実際にどうやって下水管を点検・調査していくかを説明するね。

はい。 よろしくお願いします。



カンツールオンラインセミナーについて


ところでみかんちゃん、カンツールでは新しい試みとしてオンラインセミナーの第1回と第2回を2024年1月と2月に開催したんだ。

第1回[カメラの種類とスクリーニングについて]
第2回[洗浄ノズルの選択と応用]
ですよねーー♪わたしもYouTubeで見ましたよ~

今からでも申し込みを行えばアーカイブの視聴ができるから、KANMAGA読者の皆様の中で見逃した方がいたら下記のリンクからぜひお申し込みください。

セミナー 内容
第1回セミナー 案内ページ 第1回「下水道維持管理におけるカメラの種類と注目されるスクリーニングとは何か?」
下水道の維持管理で必要とされるカメラ技術の基礎から応用までを解説。カメラによる点検、調査、スクリーニングの重要性と、最新技術や製品の展望を紹介します。
アーカイブのお申し込みはこちら

※お申し込み内容を弊社が確認次第、視聴アドレスをお申込み時のメールアドレスにお送りいたします。

第2回セミナー 案内ページ 第2回「下水道管内清掃技術と高圧洗浄ノズルの選択と応用」
海外のトップクラスのノズルメーカーであるKEGとENZの製品を例に、土砂搬出、モルタル除去、油脂除去など、特定の目的に合わせた最適なノズルの選択方法について詳しく解説。実際の現場での使用例と撮影映像を交えて紹介します。
アーカイブのお申し込みはこちら

※お申し込み内容を弊社が確認次第、視聴アドレスをお申込み時のメールアドレスにお送りいたします。

とおるさんの説明、とっても分かりやすかったです!カンツールのオンラインセミナーって今後毎月開催するんですか??

その予定だよ!今後のセミナーもお楽しみに!
ちなみに3/26(火)は第3回のセミナーとしてスクリーニング点検の現場作業から報告書作成までの全工程を解説するよ!

第3回セミナー「下水道維持管理のスクリーニング点検の実務: 現場作業から報告書作成までの全工程を解説」

2024年3月26日(火)第3回セミナーのお申し込みはこちら


たくさんのご参加お待ちしております!

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